岡山は田舎だから、デートスポットなんてほとんどない。そもそも高校生はお金がないから、仕方なく旭川の河川敷で空を眺める。猫のような形の雲。どこが猫に見えるのか。彼女に説明しようとしても伝わらない。ぼくにとっての旭川はそのもどかしさと共にある。
---
今年の3331Art Fairは去年に比べるとずっとフェアらしくなっていた。去年は参加作家が元気すぎてぼくも一緒に遊んでしまったのだが、今年は売るための作品が出品されていて、清々しかった。
その中心に、テントがある。雑然と並べられたように見えるガラクタ。しかし、よく見れば、マフラーを内蔵の形に溶接した金属作品や、2枚の紙幣を編みこんだ作品、どこともつかない建物の設計図からビビッドな色の液体が入ったフラスコなど、巧妙に仕組まれたインスタレーションであることが分かる。そして、それらすべてが彼らのこれまでの作品と深く繋がっていることが了解される。
>コンセプトOK。コレクター目線の第一段階クリア。
しかし、売り物としてはめちゃくちゃだ。そもそも売る気がないのではないかとすら思えるのだが、半分本気(マジ)、半分ネタの軽快な真剣さは、やはりアートと呼ぶしかないものだ。アトリエの前にあったコンクリート製の柱10センチ10万円、インスタレーション全部で350万円。このあたりはぼくも半分本気(マジ)、半分ネタでしか確認していないので曖昧だが、とにかくコレクションとしては危険すぎる。
>黄色信号。コレクター目線の第二段階は怪しい。
テントの下に組まれたインスタレーションをくるくると回っていると、人だかりができている。109の雑貨屋にある安いピアス売り場に群がる女子高生のごとく、コレクターたち?がわいわいと楽しそうに何かを手に取り合う。手にあるのはただの釘だ。プラスティックの袋に入れられた釘には"LIKENESS BY NAILS"というタイトルとともに、アートに関係する著名人の名前が書かれてある。たしかにジャコメッティっぽい!オレはカフカを買う!釘を見て各々の知性を見せびらかすコレクターたち。当然、ぼくもその中の一人だ。それどころか、すべての釘の画像がプリントされたポスターのedition1が残っていることを知ってすぐに買ってしまった。
>コレクター目線第三段階。値段OK。
>コレクター目線第四段階。人気OK。
>コレクター目線第五段階。希少さOK。
現存アーティストの作家の作品を購入するときに、コレクター目線から何よりも重要なことは作家が制作を続けることだ。この点、ミルク倉庫+松本直樹には不安がない。そして、これまでの彼らの活動を象徴するような作品。これ一つで彼らを語るきっかけになる。要するにとても「らしい」作品だ。
>コレクター目線第六段階。資産価値OK。
もちろんその作品が欲しいかどうかが一番大切なのだが、コレクターは様々な要素を勘案して決断しなければならない。ここで書いたものはその一部である。どの要素によって購入に至るかは、場合によるとしか言いようがない。しかし、できるだけ多くの「コレクター目線」を獲得することが、コレクターとして成長することだと思う。
---
小津安二郎っぽいね、デュシャンのイメージにぴったりだね。コレクターの稚拙な知性の見せ合いにもどかしさはない。そんな状況自体にもどかしさを覚えることをなんと呼べばよいだろう。明らかなことは、それが郷愁からもっとも遠くにあるということだけだ。
PS.
トークイベントや展示イベントを主催しているCAMPの井上氏が”LIKENESS BY NAILS"のソクラテスを購入していた。それを知ったぼくはプラトンを購入した。