作家推薦者

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毛利 嘉孝 / Yoshitaka Mouri

社会学者/東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授

推薦作家

   

今回選んだ作家は、すべて何らかの〈境界〉を扱っているアーティストである。国家、民族、人種、国民と移民・難民、ジェンダー、セクシュアリィ、生と死、公と私……彼女・彼らは、たえず〈境界〉を意識して、社会や政治、経済の関係性を探っている。けれども、彼女・彼らは決して何かの〈オルタナティヴ〉を志向しているわけではない。また、何らかの境界の中に閉じ込められているわけでもない。1996年に発表されたコンピレーションに《ノー・オルタナティヴ》と題されたミュージックアルバムがある。エイズ危機に対応して発表されたこのチャリティアルバムには、スマッシング・パンプキンズやニルヴァーナなど楽曲が収められているが、このタイトルが示しているのは、もはや〈オルタナティヴ〉など存在しないということだ。それに倣えば、今回の作家の選出のテーマは、〈ノー・オルタナティヴ〉である。重要なのは、〈オルタナティヴ〉という安易なレッテル貼りに「ノー」を突きつけ、こうした〈境界〉を扱う作家たちをあらためてシーンの中心に位置づけることだ。それは保守派の”There is No
Alternative”というスローガンを乗り越えて、私たちの手に取り戻すことでもある。

毛利 嘉孝

社会学者。専門はメディア/文化研究。1963年生。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授。京都大学卒業、広告会社勤務後、ロンドン大学ゴールドスミスカレッジでPhDを取得。特に現代美術や音楽、メディアなど現代文化と都市空間の編成や社会運動をテーマに批評活動を行う。主著に『ストリートの思想』(日本放送出版協会)、『文化=政治』(月曜社)、『増補 ポピュラー音楽と資本主義』(せりか書房)、編著に『アフターミュージッキング』(東京藝術大学出版会)。

http://ga.geidai.ac.jp/academic-staff/#mori