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黒澤 浩美 / Hiromi Kurosawa

金沢21世紀美術館チーフ・キュレーター

推薦作家

   

想像力が人一倍働くアーティストたちは、世界の様相をどのように捉えているのだろうかと考えることがある。現代の表現とは世界で取り沙汰されている現代美術ワールドとイコールではないので、あまねく表現者は半ばトレンドのように持ち出されるエコロジーやジェンダーといった類のトピックに敏感であるべきとも思わないが、作家は少なくとも独自の視点を持ち、自分は社会とどのような関係にあるのかを考え続けるべきではないかと思う。インターネットを介してつながるデジタルでフラット化した世界は、一見整理整頓が行き届き、説明がつけやすい。しかし、実際は混沌として複雑に絡み合い、手触りや濃淡があり、人間はどこかそうした現実の中に生きている。それを思い出させるためにも、表現者は自然の仕組みや美しさに驚き、どうしようもない人間関係に半ば呆れながらも、圧倒的にユニークな作品を示していくべきだ。国外から日本のアートシーンを見ると、ささやかさや繊細さは際立つが、力強さが見られない。規模の大きさや量の多さといった強さではなく、複雑で見通しの効かない未来に向けて、独自の考えを強く打ち出し続ける、そうした強さである。いずれにせよ、今回のArt Fairを機会に、皆もっと力強く押し出したらいい。

黒澤 浩美

ボストン大学(マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)卒業後、水戸芸術館(茨城)、草月美術館(東京)を経て2003年金沢21世紀美術館建設準備室に参加。建築、コミッションワークの企画設置に関わる。2004年の開館記念展以降、多数の展覧会を企画。「オラファー・エリアソン」「ス・ドホ」「フィオナ・タン」「ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー」など、国内外で活躍する現代美術作家と作品を紹介。ミュージアム・コレクションの選定や学校連携や幅広い年齢の来館者に向けた教育普及プログラムも企画実施。2011年City Net Asia(ソウル、韓国)、2017年OpenArt(エレブロ、スウェーデン)、2018年東アジア文化都市(金沢)にて総合キュレーターを務める。